2005/10/15(土)卵爆弾


思ったより高かった富士山頂や、焚き火のあるところでしか会ったことのない関西人、トリ君という若者が引っ越しをしたそうだ。そこで、偉大なる某ゆる系団体の有志一同によるタイ料理での引っ越し祝い、その名も「とり邸大爆破」という、この世知辛い世の中にあってなかなかハートウォーミングな催し物が開かれた。タイ料理と大爆破の関係はよくわからないけれど気にしない気にしない。

当日、山手線の北の方にあるトリ君の新居に4時集合の予定だったが、私は朝から江戸川でハゼ釣りを延々おこなっており、さらに家に帰ってから100匹くらいのハゼを延々捌いていたため当然遅刻。ようやく7時過ぎになって、大通りから細い路地に入って、その先10メートルでさらに細い路地をいったどん詰まりという、「○○荘」という名前がピッタリくるような昭和の香りがするアパートに到着。すでにタイ風グリーンカレーや生春巻きなどの料理は出来上がっていたので、苦労なくありつけたごちそうをモグモグと美味しくいただきながら、自分の家で揚げ物は極力したくないという前向きな理由でわざわざ持ってきたハゼを新居で揚げて南蛮漬けにして、引っ越し祝いだと言い張って差し出す。タイっぽくないが気にしない。あと間違えて持ってきてしまった明日の釣りエサ予定だったアサリをパクチー、ナンプラー、白ワインで酒蒸しにしてしまう。ほら、何となくタイっぽい。ついでに餓死しないようにずいぶん前にハワイで買ったスパムを賞味期限をあえて確認せずに冷蔵庫に入れておく。やさしいな私。

グリーンカレー。うまい。 三番瀬のアサリ。パクチーが合う。

大量のハゼ南蛮漬け。

程々にお酒も廻ってきて、カツラとサングラスをつけて記念撮影したり、家主所有のレトルトハンバーグをよく揉んでおいたりという引っ越し祝いならではの光景が繰り広げられる中、美味しいグリーンカレーをつくってくれたNさんが「そろそろ爆発いってみようか」といいながら立ち上がり、すごい楽しそうに生卵を3つほど電子レンジに入れて2分ほど加熱しだした。おおこれは、昔々に探偵ナイトスクープという関西では誰もが見ている超メジャーお笑い番組、関東だとマニアック深夜番組でやっていた「卵爆弾」じゃないか。なぜか今日ここにいる人達のほとんどがその放送を見て覚えていたことが謎だ。これも運命ってやつか。卵爆弾って、確か生卵を電子レンジで適度に加熱すると、それを食べようと殻を剥いた瞬間に卵が爆発するという、死なない程度にデンジャラスな卵料理だったような。あの放送を見て以来、ぜひ一度試してみたいと思っていたのだが、そんな危険なことを自分の家では絶対やりたくないし、かといってよそ様の家でやる程の度胸ものない。それをNさんは「引っ越し祝い」としてリフォーム仕立ての台所でやろうとしている。うーん、男らしいとはこういうことをいうのだろう。私の引っ越し祝いでは拒絶させていただくが。もちろんそんなNさんの暴挙を止めようとする人はこの部屋にいない。家主のトリ君は卵爆弾というものを理解しておらず、みんながウキウキしているのをキョトンと眺めている。知らぬが仏。

地毛ではない。 地毛ではない。

地毛ではない。 卵を電子レンジに入れてふすまに隠れるNさん。楽しそう。

みんながドキドキしながら見守る中、チーンと2分間の加熱終了。Nさんが鍋の蓋でガードしながら恐る恐るレンジをオープンし、一番手前にあった卵を爆発物を扱うが如く、というか爆発物なので慎重に皿に乗せてトリ君に差し出す。全員の遠巻きな視線がトリ君の持つ危険物に集まる中、殻を無造作に割られた卵は、ほどよく半熟卵に茹で上がった不発弾だった。どうやら加熱中に卵にヒビが入ってしまったため、爆発に至らなかったらしい。一同がっかり。

不発弾。

どうやら卵爆弾は迷信だったらしい。まあそんな簡単に爆発物がつくれる訳はないわなあとまた通常の宴会モードに復帰。しかし、Nさんは首を傾げて「加熱が足りなかったかなあ」とつぶやきながら、電子レンジに残った2つの卵をさらに2分程加熱設定してふすまの陰から様子を伺っている。どうしても爆発させたいらしい。私はもう「卵爆弾は失敗!」と決めつけて、電子レンジのある台所で洗い物をしていたのだが、甘かった。唐突に電子レンジのある背後から「ボン!」と超ド級の爆発音が響き渡る。そう、卵が電子レンジの中で暴発したのだ。そのあまりの衝撃で私の心臓がピタッと動きを止めたのがわかった。血液の供給が止まった体で爆心地の方を振り返り、薄れゆく意識の中で「私は卵爆弾によってこの命を失うのだなあ、でもまあいいか」と妙に納得しながら爆発の勢いで蓋の開いた電子レンジを見ていると、そこから卵が転がり落ちてくるのがスローモーションで見えた。どうやら爆発したのは1つだけだったらしい。そしてその卵は電子レンジが置かれた冷蔵庫からも転がり落ち、床に触れた衝撃でボンと大爆発。爆風を防ぐ電子レンジの外での爆発だったために、さっき以上の衝撃が私の体を襲う。その衝撃で止まっていた心臓がふたたび動き出したのは不幸中の幸いではあった。

2連発の爆発音の後、一瞬の静寂を挟んで、本日の参加者一同(家主除く)からの盛大な歓声が、景気よく卵が飛び散った硫黄臭い新居の台所にこだましたのであった。いやあ、本気で死ぬかと思った。

災害現場。 爆心地。

電子レンジの蓋が開く破壊力。 飛び散る卵の破片。

天井にまで。 まずは遠巻きに眺める観衆。

携帯で撮影会開始。そりゃ撮影しなきゃ。 あと4秒だったのに。

呆然とする家主トリ君。 爆心地を指差して何を想うのだろう。

ふすまを締めて「なかったこと」にするNさん。 被爆した私のジーパン。かわいそうな私。

卵爆弾、あぶないって。本当に。しかし、ここでさらにNさんは、「あと4秒早かったら爆発する前に取り出せたんだよな」と更なる卵爆弾作りをしようとしたり、レトルトパックのムシ○ングカレー爆弾を作ろうとするが、家主のとても真っ当な中止命令により残念ながら未遂になるも、ニコニコと笑いながら「次はダチョウの卵でやろう!」というさらに危険な提案をしている。すごい人だ。

次は大丈夫と力説するNさん。 ムシキン○カレー爆弾にチャレンジするNさん。

さて、爆発も楽しんだし、さてそろそろ解散しましょうかといきたいところなのだが、このまま帰るのは若干ではあるけれど罪悪感がない訳でもないので、みんなで現状復帰しておく。えらい。しかし、この惨劇に対してキレないでいられたトリ君はもっとえらい。さすがにちょっとやけ酒モードに入っているが。でもきっと今日の出来事で、君は大人になるための一つの殻を破ることができたに違いない。卵の殻も破裂したことだし。大きく羽ばたけよ。

あ、金剛杖だ。 掃除する人、見守る人。

現状復帰させる大人達。 ほら、何事もなかったかのよう。硫黄臭さは無香空間で誤摩化す。

残った卵に落書きが。 今日と言う一日を表す卵の表情である。


やっぱり食べ物で遊んじゃいけないな。しかしトリ君よ、久しぶりに息ができないほどに笑わせてもらったよ。ありがとう。


買い物してして

こういうの好きかな