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10/01(土)葛飾区伝統産業館へ包丁を見に行く

ウナギ釣りにいくとなぜか毎回出会う修行僧(見た目だけ)の人から、「葛飾区の爺さんがトンテンカンやって作っている包丁を買った」とのメールが到着。う、なんだか話がみえないけれど、ちょっと気になる。なので返信で詳しい話を聞いてみると、買ったものは菊和弘というところの出刃包丁で、「本当に凄い切れ味です。実に良い買い物をしました。」との事。でも捌いたものは当然ウナギらしい。

ホームページをチェックする限り、なるほど確かにかっこいい。トンテンカンテンやっている爺さん達の表情に説得力がある。家にはホームセンターで買った安物の小出刃はあるけれど、もうちょっと大きくて重みのある出刃包丁が欲しいんだよな。でも実物を見ていないので、いきなりネットで買うのはなあとタラタラ返信をすると、彼はネットで買ったのではなくて、実物が展示してあるところでたまたま出合って衝動買いしてしまったらしい。

で、彼がその包丁と出会った場所は葛飾区伝統工芸職人会というなかなか一般人には縁のない団体の本拠地、葛飾区伝統産業館という、地図で見た感じだと家から自転車で20分くらいの場所。じゃあちょっくら私も様子見にいってこようかな。今のところ、そんな立派な出刃包丁を使うような魚を釣る予定は全くないので、とりあえずは下見程度ということで。今年これから釣る予定があるのはウナギとハゼとワカサギくらいだ。まあ、念のためありったけのお金を財布に詰めてはいきますがね。

そんな訳で、久しぶりに乗る自転車のタイヤに空気をパンパンに詰めて、トンカンキンカンと熱した鋼をハンマーで打つ様子をイメージしながらリズミカルにペダルを漕いで、見知らぬ土地だったけれど珍しく道に迷うこともなく無事到着。

ちゃりんちゃりん。 葛飾区伝統産業館到着。

店内に入ると、職人っぽいおっちゃんとじいさんが商売っ気なくのほほんと店番をしている。お客さんは私以外にじいさんが一人いたがすぐに出て行ってしまった。ふう、私一人か。変な緊張感があるな。まあ、見るだけ見てさっさと帰ろうと、とりあえず中をぐるりと一周。1メートルくらいのスペースごとに染物やら切子やら彫金やら和竿やら私も持っているテナガエビ釣りでお馴染みの十字テンビンやらの様々な工芸品(そうか、十字テンビンは工芸品だったのか)が所狭しと陳列してあってなかなか楽しくてどれも無駄に欲しくなる。特に江戸切子なんかは当たり前だけれどダイソーとかで売っているようなグラスとは全然違う趣があって、このグラスで飲めば家の蛇口から出やがるまずい水道水でもたちどころにおいしくなるんじゃなかろうかと思わせる風格がある。あえてウナギ用の水槽に沈めておきたい。でも先立つものがレーシック手術の副作用でスカンピンのため買えないのよね。

で、包丁。入り口近くに鋏と一緒に並んでいる「東京打刃物」が、修行僧が買った包丁らしい。刃渡り120ミリの出刃包丁っていってたからこれか。ううん、実物を見るとかなりイカシテイル。イカす包丁天国。もう見た瞬間に財布の紐がひゅるんと緩んでしまったので、早速店番のじいちゃんにショーケースから出していただく。お金はまだ出さない。

私「すみません、この出刃包丁見せてください。」
店番「はいはい。商売で使うんですか?」
私「いや、ただの趣味です。釣った魚を捌くくらいです。」
店番「へえ。どんな魚を釣るんです。魚の大きさによって合う包丁がありますからね。」
私「最近はもっぱらウナ・・、いやアジとかサバ程度ですかね。」

あぶない。ついうっかり正直にウナギと答えそうになってしまった。
いや、答えてもいいのだが、欲しいのはウナギ割きではなくて出刃包丁。
使う予定はないけれど。

ショーケースから出された包丁は、持って見ると見た目よりもずっと重く、さすが工芸品というだけあって所有欲を満たすだけのデザイン性が備わっている。店番のじいちゃんも「俺も釣りするけれど、いい包丁はいいよ。一回研ぎに出せば完璧だ。」とうんうん頷いている。だめだ、もう買う気満々だ。あとは扱いやすそうな刃渡り120ミリにするか、いっそカンパチでも捌けそうな(釣れればだが)150ミリにするかという問題だけなのだが、若い方の店番の人が、「もう一件包丁あるよ!」とちょっと奥にある「江戸打刃物」というショーケースから出刃包丁を持ってきた。

「東京打刃物」に「江戸打刃物」。

いかん、選択肢が増えてしまった。世の中的には選択肢が多いことはいいのだが、もう買うものがほぼ決まっている状態での選択肢の増加は迷いしか生まないのでちょっと焦る。正直違いがよくわからないので、「どっちがいいんですか?」とストレートに聞いてみたが、「ほら、私たちは両方を応援しなくてはいけない立場だから。」と歯切れの悪い返事しか帰ってこない。包丁なのに切れが悪いとはこれいかに。とかいっている場合じゃない。うーん、どうしよう。ここでブリでも下ろしてみればどっちが切れるのかすぐに分かるのだがそういう訳にもいかないので、素人らしく外見から判断するか。

まず東京打刃物。こいつは刃が全体的に艶々しており、柄の先(刃が刺さっている所)が濃い茶の木目で素人目にかっこいい。

次に今持ってきてもらった江戸打刃物。なんか指紋がいっぱい付いているし、この包丁は刃にツヤがない。柄の先も白っぽいプラスチックみたいでかっこよくない。勝負ありだな。

よし、男らしく東京打刃物150ミリを買おうと心に決めたその時、商売っ気のない店番のおっちゃんが「今度、葛飾区農業・伝統産業展っていうのあって、それにいくともっといろいろな種類があるし作っている人も来るよ!そうしなよ!」と 私の購入を善意で阻止しやがる。くそう、そういわれると気になっちゃうじゃないか。仕方ない、今日のところは諦めるかと思ったその時、ピンクのシャツを着た社会の先生っぽい中年男性がガラガラっと入ってきた。「お、ちょうどこの包丁作っている人がきたよ!」と店番の人。なんとまあ絶妙なタイミングで、今の段階でビジュアル面の評価が低い「江戸打刃物」の跡継ぎさん登場ですか。

せっかくのチャンスなのでこれ幸いといろいろ話を聞いてみると、 この江戸打刃物のプラスチックっぽい柄は、 実は「水牛の角」で適度な弾力があり割れにくい高級品で、東京打刃物の茶色い柄は「圧縮した木」なのだそうだ。「洋服でもいい服にはいいボタンを使うでしょ。それと一緒!」と ハキハキ自信満々にいわれてしまった。ううん、そういわれてみると、なかなか落ち着きがあっていい包丁に見えてきた。うんうん。包丁の輝きの違いについては「みんなペタペタ触るから」と若干不利な様子。で、なんやかんや話し込んでいるうちに「家は自転車ですぐだから見にいらっしゃい」という話になり、なぜか制作現場にいくことになってしまった。ちょっと包丁を見にきただけなのに意外な展開だ。さすが私だ。まあいいか

ゆっくりと走る江戸打刃物のおっちゃんの自転車の後を追い、「この居酒屋は刺身がうまい。」とか「この家は明治神宮の飾りとかを作っている。」とかの大変役に立つ解説つきで葛飾区の下町路地をサイクリング。なんかなぎら健一が出演するテレビ番組みたいな流れになってきたのは気のせいか。曲がり角でヨネスケが待ち伏せしているような気がしてきたぞ。なんとなく。

左の人は関係ない。

産業館からほんの5分ほどで「八重樫打刃物製作所」という力強いネーミングの包丁屋さんに到着。といっても普通の住宅街にある一軒家。自転車から降り、さっそく玄関に並べられた五分(1.5センチ)刻みの出刃包丁を持ってウンウン唸る。あれ、なんか握ったときに感覚が普通の包丁と違うなあと柄を見てみたら、普通は楕円形なのだが、ここのは一箇所だけとがった不思議な形をしている。 これが指の関節のところにしっくりと収まって調子がいい。「面白い柄の形ですね」と聞いてみたら、良くぞ聞いてくれましたといった表情で「ほら、下から見ると栗の形をしているでしょ、栗型っていうんですよ!」とうれしそう。なるほどなるほど栗型ね。うん、もう買う。四寸(刃渡り120mm)か五寸(150mm)か悩んだのだが、四寸五分(135mm)という中途半端なのがしっくりきたのでこれで決定。お値段は、カワハギの釣り船一回分くらい。見分不相応の包丁だが、これで少しは料理がうまくなるかな。

八重樫打刃物製作所。名前が強そうだ。 なぜか江東版。

お金を払い、お包みをしてもらっている間にメンテナンス方法について伺っておく。やっぱり鋼の包丁はすぐに錆びてしまうので、使い終わったらよく水気を拭いておくのが肝心だそうだ。一番いい方法は、洗って熱湯をかけたら乾いた布でよく拭いた後に、薄く油を塗っておく。ここでは椿油を使っているとの事。切れ味が鈍ったらさっきの産業館に持って来れば、有料で研いでくれるそうだ。それは心強い。

帰りにちょっと鍛冶場を見せてもらうと、江戸時代から大して変化していないんじゃないかと思うくらいに力いっぱいアナログだった。すげえ。

仕事場。アナログである。 産業フェアは10/16〜16だよ。

そんな訳で葛飾区伝統産業館の包装紙で包まれた包丁をサラシに巻いて、じゃなくてヒップバッグに突っ込んで、ニヤニヤしながら帰宅。いやあ、包丁一本買うだけでなかなかの大冒険だったなと。まだ出刃包丁でなにも切っていないけれど、なんかすでに柳刃が欲しい。できれば文化包丁とウナギ割きも。うう。

オシャレ包み紙。 オシャレ箱。

オシャレ包丁。あれ、こんなんだっけ。

帰宅して包丁を見てみたら伝統産業館で見たやつとなんか違うな。水牛の角が黒いし包丁がテカテカしている。うん、素人目にもカッコイイ。よし、これでタイでもヒラメでもマゴチでもカンパチでもアカエイでもどんとこいだ。釣りにいく予定ないけれどな。でも一番最初に捌かれる釣った魚はウナギなんだろうな。ごめんよ、包丁。役不足だが我慢してくれ。



今回は縁あって八重樫打刃物製作所の江戸打刃物、四寸五分の出刃包丁をニヤニヤしながら買ったわけだが、もしあの時、産業館にきたのが東京打刃物の人だったら、そっちの包丁をニヤニヤしながら買っていたんだろうな。縁っておもしろいなと。もしかしたらこれが縁で来年は私がトンテンカンテンと包丁を作っているかもしれない。


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