2/5(日)千葉 大原港 松栄丸からヒラメ釣り

真冬のヒラメ釣りに昔から憧れていた。憧れてはいたけれど、やることはないだろうなあと漠然と思っていたヒラメ釣りなのだが、某修行僧から「飲み屋で知り合った人と外房へヒラメ釣りにいくことになった」という、大変胡散臭いメールがきた。外房のヒラメ釣りっていうのは、出船が朝5時半とかで、しかも港は大抵駅からとっても離れた場所なので、クルマがないと全くいけない釣りである。まあ、大抵の沖釣りは車がある事が前提なんだろうけれど。この機会を逃すともうヒラメを釣ることはなさそうなので、私もついていく事にした。全く見ず知らずの人との釣りというのはなかなか緊張するものだけれど、人見知りをしている場合ではないのである。

外房のヒラメ釣りといえば、波の高さで有名。船酔いする人が多いらしい。そんな訳で、届いたばかりの「ロデオボーイ」にまたがり、グイングインと揺れながらヒラメ釣りの仕掛けを作るという船酔い対策をしてみる。ちなみに仕掛けはハリスがフロロカーボン6号1メートル、捨て糸ナイロン5号50センチ、針は親針がヒラメ17号、孫針がチヌ6号、その辺にあったもので適当に作ってみた。グイングイン。オモリは80号らしい。グイングイン。竿は修行僧からの貰い物である3メートルのマダイ竿、リールは兄貴から借りてきた謎のリールだ。グイングイン。PEの何号が巻いてあるのかは知らない。グイングイン。そして、インターネットを駆使して、外道で釣れるらしいマトウダイの料理方法を延々調べたりして。グイングイン。肝が美味しいらしい。グイングイン。ヒラメはどうも釣れる気がしないのだよ。グイングイン。

ロデオボーイ。 きっとこれは船酔い対策のためにある。

釣り当日、朝というか夜中の3時、今回の主催であるMさんに最寄りの新小岩駅まで迎えにきていただく。地理上の問題で、修行僧より私が先にピックアップされる事になったのさ。Mさんの顔はわからないけれど、事前に電話で車の種類を聞いていたし、トランクでロッドケースらしきものをゴソゴソやっているからきっとこの人だろうと精一杯の笑顔で「おはよ・・・」と言いかけて素通りしてしまった。ロッドケースだと思ったものはゴルフバッグだったのだよ。あああああ、恥ずかしい。しかし、通り過ぎたところで、そのゴルフバッグを持った人に「標本(仮名)さん?」と呼び止められる。どうやら積みっぱなしにしていたゴルフバッグをどかしていただけらしい。あわあわ。

そんな感じで人生に於ける小ネタを挟みつつ、新小岩を無事出発し、途中で修行僧を拾って一路千葉県の大原港へ。大原港っていうのが千葉のどこにあるのかは未だによく知らない。

ゴーゴー。

私はヒラメという魚には、富浦の手漕ぎボートでソゲが釣れたくらいしか縁がないので、道中Mさんと修行僧から諸々棚の取り方、合わせ方などを伺う。なんでも3分ごとにオモリを底から1メートル上げて、ひたすら待ち、竿がグググっググと思いっきり曲がったら合わせるのを基本に、あとは個人の裁量でお好きにということらしい。ちなみにMさんはヒラメ17連勝中なので絶対に釣れると言い切っている。ほうほうほう。しかし、今日は縁起の悪い二人(もちろん修行僧と私だ)がついているので、そううまくいくかな。とりあえず、オマツリしないようにがんばろうかなと。目指せマトウダイ。

真夜中の房総半島を豪快に横断し、無事大原港に到着。風はないけれど猛烈に寒い。なぜなら冬だから。じゃあしょうがない。今日の釣り船は松栄丸。料金は11,500円と今までの釣り人生の中で一番お高い。なんか餌にする生きイワシが高いので、釣り船台も普通より高いんだって。しかし釣り船っていうのは船宿で受付をしてから乗るもんだと思っていたんだけれど、ここはいきなり船に乗るらしい。外房の釣り船はこういうのが普通なんだよとMさん。所変われば船宿変わるってやつですか。修行僧曰く、「外房の釣り船は第三次産業(サービス業)ではなくて、かぎりなく第一次産業(漁業)に近いから、海面でバラすと怒られるから気をつけて!」だそうだ。そうか、漁か。ああ、今年の地引き網どうしよう。まあいいや、とりあえず酔い止め飲んで乗船だ。

レッツゴー。 オニカサゴは手巻きだと辛いからやりません。

Mさんから借りた竿受けを持ってマゴマゴしていたら、オニカサゴの船に乗っていたジイサンが取り付けてくれた。前にも同じ光景があったような。 生け簀には餌のイワシ。生け簀に落ちてはいけない。

なんか凍っております。

五時半、真っ暗な海へマトウダイ、いやヒラメを求めて、船長と10人の船員を載せた船が出発。船内は山小屋みたいでかっこいい。

山小屋チックだぜ。 別に修行をしている訳ではない。

港から30分程走ったところで、まず最初の釣り場到着。水深は15メートルと大変浅い。生け簀から餌のイワシを二匹程バケツに移して、亀本さんから借りてきた網でそのうちの一匹を掬い、水の中に手を突っ込んで針をつける。あ、イワシがマイワシじゃなくてカタクチイワシだ。なんだ、マイワシだったら餌にしたヤツを持って帰ってお刺身で食べようと思ったのに。針の付け方は万人それぞれだけれど、私は親針は下あごから上あごへ突き通し、孫針は肛門から軽く挿してみた。餌のイワシが元気なうちに、リールをサミング(目つぶしではない)しながらひゅるるるるる〜っと海底へゆっくり落として、Mさんに教わった通り1メートル巻き上げてみる。あとは、置き竿にしてそっと見守る。

まだ暗い。 釣れるかな。

餌バケツ。 がんばれ、貰い物の竿と借り物のリール。

ええと、予想はしていたけれど、釣れない。ここで普段の私なら、寒いので餌も換えずにボケーっとしているところだが、今日の私は違う。なぜなら餌がカタクチイワシだから。普通の人が餌のイワシを換える際、今まで使っていた餌は海へと返すのだが、私はクーラーボックスにしまっちゃう。これでたとえ坊主でも、とりあえずイワシの塩焼きが食える。カタクチイワシだけれど。そんな訳でイワシを確保するために、まじめに手が濡れるのもいとわず、ちゃんと餌を取り替えるのさ。今日も志は低い。

釣れませんよ。 お土産。

うなぎパイを昨日もらったの。 御来光が好き。

最初の場所はアタリが一切なかったため、豪快に水しぶきを浴びながら、もうちょっと深い場所に移動。ビショビショである。移動したポイントは水深40メートルで、潮も速い。オモリ80号では流されてしまうという事で、船長より100号のオモリが支給される。重ーい。でも100号でも思いっきり流されるんだよねー。ヒラメ釣りの船は潮に対して直角に横を向けて流すので真っ直ぐ前か、真っ直ぐ後ろのどっちかに道糸が出て行く。なかなか底がとりずらいなと戸惑っていたら、私の後ろで大きなホウボウが、左側では立派なスズキが釣れている。おお、本命じゃないけれどうらやましいぞ。船内に活気がでてきたので、船長も海の男らしい、いい笑顔でニコニコしている。

バッシャーン。 ビショビショ。

オモリ100号。 あ、なんか釣れている。

でっかいホウボウ。 向こうでも何か釣れている。

立派なスズキだった。

周りは釣れているけれど、我々3人は未だアタリなし。しかし、すぐにその沈黙はMさんによって破られた。釣り上げる際に私と修行僧の縁起悪い二人とオマツリをしつつも、当初の宣言通り見事なヒラメ(65センチ、3.6キロ)をバシッと釣り上げた。

支給されたオモリが100号+20号になっていたりする。 Mさんナイス。

立派なヒラメを釣り上げた Mさんに、立派なオマツリをほどいてもらったところで、餌でも換えようかとリールを巻くと、なんか猛烈に重い。けどちっとも引かない。昆布かなんか引っ掛けたかなあと、マトウダイ狙いで持ってた小さいリールでグリグリと無理矢理巻いていたら、後ろの人から「オマツリだよお」と声がかかった。どうやら後ろの人とオマツリしちゃったみたい。こういう場合、自分ではほどこうとすると大抵ろくな事がないので、後ろの人に任せてボケーッとしていると、サポートしていた船長が網で獲物を掬っている。どうやら私の仕掛けと一緒にヒラメも釣っていたらしい。あーいいなー私もヒラメを釣りたいなーと見ていたら、でかいヒラメの入った網を手にした船長が私のところにやってきて、「これ、あんたの仕掛けに食っていたおぉ(房州弁)!」とアバンギャルドな発言。おおおおお、私のヒラメでしたか。それは失礼しました。どうやらMさんとオマツリしている間に釣れてしまった私のヒラメが後ろの人の仕掛けとオマツリしたらしい。そんな訳で、自分で合わせていないけれど、目の前でタモ入れされていないけれど、とりあえず人生初のヒラメゲットである。しかも針を外そうとしたら、口じゃなくて腹に刺さっていやがった。だから引かない割には無駄に重かったのね。正に「釣った!」のではなく「釣れた!」一匹。さすが俺。なんかタチウオのときと展開が一緒だ。きっと昨日の恵方巻きのご利益だ。ありがたやありがたや。

釣れたらしいぞ。 針は腹。

なんかでかいぞ。 クーラーボックスギリギリだ。

いやあ、釣った気がしない。ヒラメ釣りの醍醐味は、「合わせ」のタイミング、「引き」の楽しさ、「タモ入れ」の緊張感、この三つだと思うんだよね。それが全部なかったよ。合わせてないし、スレだから引かないで重いだけだし、タモ入れは私の見えないところでおこなわれているし。うう。でもいいんだ。きっと次はちゃんと釣るんだと、昨日恵方巻きを作った時に、ついでに作ったお弁当用の恵方巻きをモグモグと食べながら「ヒラメヒラメ」と念じていたら、なんだか竿先がビクビクいっている。おお、今度こそちゃんと一般的なヒラメ釣りをしてやるぜと、本格的なアタリを待っているが、なかなかそれがこない。モグモグ。ちなみに恵方巻きは波しぶきを浴びていい感じの潮加減だ。モグモグ。しかし、本アタリがこないな。でもヒラメ40というくらいだからもうちょっと待つべきかな。カウントでもしてみるか。モグモグ。・・・79、80。あれ、カウントしていたら80越えてしまった。どうやらバレちゃったらしいなあとリールを巻くと、また後ろから声がした。「オマツリしてるよお」。あらあら、さっきのはアタリじゃなくてオマツリだったのね。なんだよ緊張して損したじゃないかとオマツリがほどかれるのを待っていたら、また船長がやってきて網で何かを掬っている。どうやらまたオマツリした仕掛けでヒラメが釣れているらしい。今度は後ろの人だろうと見ていたら、やっぱり船長がヒラメの入った網を持ってきて、「またあんたの仕掛けだおぉ」と呆れたようにいった。後ろではオマツリしていたおっちゃんが「俺がバッチリあわせておいたから!」と空元気で軽口を叩いている。ごめんよおっちゃん、ぬか喜び二連発させてしまって。なんか修行僧が「でた!得意のオマツリ釣法!」とかいっているし。否定できないのが悲しい。どうやら最初のアタリですでに針がかりしていたヒラメが暴れ回ってオマツリしたみたい。アタリがわかりにくいのは、ヒラメを釣るにはちょっと固いタイ竿のせいということにしておこう。まあ、今度は針が口にかかっていただけ上達したという事で。やっぱりこまめに餌を換えるのは大事なんだなと一つ学習。そんな訳で、さっきよりちょっと小さい食べごろサイズの2匹目を無事ゲット。食べたらこっちの方が断然おいしかったよ。

ご利益はばっちりだ。 食べごろサイズ。

ここで注意事項。ヒラメの歯はとても鋭いので、口に手を突っ込んで釣り針を外そうとしたり、間違ってもバス持ちとかしちゃダメだよ。

めでたいめでたい。ヒラメが二匹も釣れちゃった。よし、次こそはマトウダイだと気合いを入れなおしていたら、右側のおっちゃんが私の大好物を釣り上げて困っていた。そう、干して美味しいホシザメである。ビチビチと元気いっぱい跳ねているホシザメを明らかに持て余しているおっさん。どうやら針が堅いところに刺さっていて抜けないらしい。足音を立てないようにこっそりと近づき、「ペンチ、使ってください!」とにっこり笑う。どうにか針が外れたところで、ペンチを受け取りつつ「美味しそうなサメですね。」とポツリとつぶやく。すると、おっちゃんが不思議な生き物を見るような目で私を見るので、そこですかさず目をキラッキラさせながら「逃がすんならちょうだい!」と、カブトムシを欲しがる孫のように手を出すと、「おお、欲しけりゃもってけい」と気前よく一匹丸ごとくれた。なぜんあらサメだからね。

ニコニコしながらサメを持って帰ってきたら、まだ一匹も釣れていない修行僧に「ヒラメが二匹釣れているのにまだサメを欲しがるか!」といわれてしまった。サメは別腹。ケーキホールならぬシャークホール。サメを持ち帰るという行為が理解できないMさんがちょっと引いている。でも欲しかったんだ。サメ。

サメだサメ。 まあ美味しそう。

などとやっているうちに、私の仕掛けはいつの間にか餌を食い逃げされていた。あ〜、多分恵方巻きを昨日一気食いした時に、キュウリが一切れ落ちたんだよなあ。それでか。っていうか竿をほったらかしてサメで遊んでいたからか。そして修行僧が「なんか重いと思ったんだ〜」とかいいながら、でっかいクロメバルを釣った。大変美味しそうである。そして私は鳥にフンをされた。

ガビーン。 頭じゃなくてよかったと思おう。

まあ美味しそう。 最初にスズキを釣ったおっちゃんは、もう一匹スズキを釣って困っていた。

船長より、あと10分で終わりだおーとのアナウンスがあり、結局今日は外道が何にも釣れなかったなあ、今年は一日一魚種しか釣れないのかなあと思っていたら、最後の最後に竿をひったくるような強烈なアタリがきた!さっきサメを釣ったおっちゃんにな。ヒラメにしてはグイグイと引っ張るヒキは、イナダかなにかだろうかねと見守っていたら、赤い魚が上がってきた。お正月に釣りそこなったマダイだ。でかー。いやあ、こんなのがいるんだね。びっくりしたよ。釣ったおっちゃんはもっとビックリしているけれど。やっぱり針が外れなくてペンチを貸したんだけれど、タイはもらわなかったよ。そしてまだメバルしか釣っていない修行僧は、船が揺れた時に立てた竿に寄りかかってしまい、根元をポキッと折ってしまった。竿の先が折れるっていうのはよくあるけれど、根元が折れるっていうのは初めてみたよ。私がどう声をかけていいものかと悩んでいたら、「これ、写真とっていいよ!」と男らしい事を言い放った。なかなか見事な心意気である。さすがインドまでいって地元民に地引き網を手伝わされただけはあるなと。

赤い。 でかい。

でかーい。 見事にぼきっといきました。

そんな訳で、11時半に沖上がり。外房の釣りは横須賀の釣りより開始も終了も二時間早いみたい。船宿から素敵なお弁当をもらって本日の釣り終了。いやあ、疲れた。ちなみにロデオボーイのおかげか、全く船酔いはしなかった。というか、今まで船酔いはしたことないんだけれどね。

Mさんが釣ったヒラメ。 船宿の人に写真を撮られるMさん。

修行僧撮影。これは画像を加工したのではなくて、こういう写真だったのよ。たぶん修行僧の怨念がレンズを曇らせたのであろう。 左の写真のすぐ後に私が撮った写真。奇麗に写っているなあ。ヒラメをこう持っちゃダメよ。

ヒラメが釣れなかった人には、船宿よりアジの干物がプレゼントされます。 そして私はいつの間にやらヒラメの歯で怪我をしていた。気をつけていたつもりだったんだけれどなあ。

お弁当。こういうシンプルなの好き。

とりあえず、なにはともあれヒラメが釣れてよかったなと。68センチ。たぶんもう二度と釣る事のないサイズだな。「釣ったヒラメ」じゃなくて「釣れたヒラメ」だけれどね〜。サンキュー船長と後ろの人!


たまたま今読んでいる向田邦子の本に「「人間はその個性に合った事件に出逢うものだ」という意味のことをおっしゃったのは、たしか小林秀雄という方と思う」と書いてあった。私は小林秀雄という人はどこの誰だかまったく知らないのだが、人生初のヒラメ釣りがこういう結果だったのは、まあ、そういうことなんだろうなあと妙に納得した 。なんとも迷惑な個性だこと。


買い物してして

こういうの好きかな